目次
コミュニケーションは「伝えたか」ではなく「伝わったか」で決まる
企業や組織の現場において、「言ったはずなのに伝わっていない」「指示したのに意図と違う行動が返ってくる」といった問題は日常的に発生している。
ここで改めて押さえておきたいのは、コミュニケーションの成否は、発信側ではなく受信側の受け取りで決まるという原則である。
どれだけ論理的に説明したつもりでも、相手にその意図が正しく伝わっていなければ、コミュニケーションとしては成立していない。「言った」「説明した」は、組織運営においては成果を保証しないのである。
「正しく伝えているつもり」が組織を停滞させる
私自身、社会人になりたての頃は、「自分は言った。理解しない側に問題がある」という考え方に立っていた。しかしその姿勢では、関係性も成果も改善されないということを、現場経験を通して痛感することになった。
組織においても同様で、「部下の理解不足」「現場の意識の低さ」という言葉の裏側で、実は伝え方・関わり方の構造そのものが問われているケースは少なくない。
コミュニケーションを阻害する「3つの壁」
現場で起きる多くのすれ違いは、次の三つの壁によって説明できる。
① 曖昧性の壁(言語の不明確さ)
私たちは日常的に、言葉を省略し、抽象的な表現で指示や依頼を出してしまいがちである。しかし、抽象度の高い言葉は、受け手側で解釈のズレを生む。
組織においては、「具体的に」「行動レベルで」伝えることが、再現性のある実行につながる。
② 関係性の壁(信頼関係の有無)
人は、信頼している相手の言葉は受け取りやすく、そうでない相手の言葉は無意識に軽く扱う傾向がある。
つまり、関係性が整っていない状態では、どれほど正しい内容でも伝わりにくい。これはマネジメントや育成の現場において、極めて重要な前提条件である。
③ 存在の壁(在り方・雰囲気の影響)
人は言葉以前に、「この人は話しかけやすいか」「この人には本音を言いにくいか」を、雰囲気や態度から判断している。
リーダーや管理職の「在り方」は、それだけで組織のコミュニケーション量と質を大きく左右する要因となる。
スキルの前に「前提条件」を整える
多くの企業研修では、伝え方の技術や話し方のスキルに焦点が当てられる。しかし、実際にはその前提となる三つの壁が整っていなければ、スキルは機能しない。
相手を変えようとする前に、自分の伝え方、自分の関わり方、自分の在り方を点検する。この視点こそが、組織のコミュニケーションの質を底上げする土台となる。
コミュニケーション改善は、組織風土づくりから始まる
コミュニケーションの問題は、個人の能力問題ではなく、構造と関係性の問題である。
この前提に立ったとき、育成やマネジメントのアプローチは、より本質的で持続可能なものへと変わっていく。
参考文献:齋藤秀樹『Good Team 成果を出し続けるチームの創り方』2020、日経BP